質問
半年前に亡くなった父の遺産分割協議をしています。そこで「生命保険金は遺産分割協議の対象にならない」と兄がいうのですが、本当ですか。生命保険金は兄が全額受け取ることになっています。
答え
生命保険金は原則として契約時に設定した受取人が受け取ることになっているので、遺産分割協議の対象にはなりません。そして、同じように死亡退職金も遺産分割協議の対象になりません。
遺産分割は、遺言書があればそちらが尊重されます。
ですので、被相続人は法定相続分に拘束されず、遺言によって相続分を自ら指定したり、第三者に遺贈したりすることができるのです。(指定相続分という)
しかし、この指定相続分も遺留分に反しない限りという条件がつくので注意しなければなりません。遺留分とは、被相続人が相続人の為に必ず残しておかなければならない財産の割合のことを言うのですが、もし、遺留分を侵害するような遺言書を作り、その通り遺贈が行われたら、侵害された相続人は「遺留分の減殺請求」の権利行使をすることができます。
遺留分の減殺請求の行使期間は限られており、被相続人が死亡したこと、あるいは自分の遺留分が侵害されたことを知ったときから1年以内に権利行使しない場合、または相続開始のときより10年経過すると、遺留分侵害の事実を知らなくても権利が消滅します。
生命保険金は受取人が決まっている場合、原則として保険金受取人の手に渡りますので、遺産分割協議書の対象財産ではありません。
たとえば、亡くなった父親の遺産総額が3億円で相続人が4人いたとして、そのうち1億円が生命保険に加入していて受取人を長男にしていた場合、遺産分割協議の対象となるのは2億円で、1億円は長男に渡ります。
生命保険に加入にして受取人を指定することにより、遺留分のハードルを越えることができるのです。
また死亡退職金についても、死亡退職金とは被相続人の生前中の役務の対価として死亡に伴い会社から支給される金品のことをいいますが、相続財産とみなされた死亡退職金は、本来の遺産ではないので、遺産分割協議の対象となりません。
もし、死亡退職金を取得すべき受取人を無視して遺産分割をすると、受取人が相続財産として退職金を取得したものとして相続税を課税された後、実際に受け取った人に贈与税が課税されるので、注意しましょう。
死亡退職金の受取人は
①受取人が退職給与規定により具体的に定められている場合は、その指定受取人
②受取人が具体的に定められていない場合は、死亡退職金を申告書の提出期限までに現実に取得した人、あるいは、相続人全員の協議で受取人と決められた人
③上記①②以外の場合は、法定相続人全員が均等に取得したものとされる
と定められています。
【ワンポイント】
生命保険金(死亡保険金)は遺産分割協議書の対象にならないので、遺留分のハードルを越えることができます。
質問
去年、父の遺言により同居し家業を継いでいた長男である私がほとんどの財産を相続しました。遠くに住む他のきょうだい(弟・妹)には今のところ何も言われていませんが、今後もうまくつきあいたいと考えています。どうすればよいでしょうか。
答え
相続には本家相続と均分相続があります。
本家相続とは、長男(もしくは事業承継者、同居者)が家を引き継ぐというもので、もちろん負担(墓守や家業の存続、残された親との同居等)もその者が負う...という旧民法の考え方の相続です。
では、均分相続の方はといいますと、「子供は均等に相続する」という現民法の考え方の相続です。しかし、今後の費用負担(親戚の冠婚葬祭・墓守・残された親の生活費や介護)までもが均分にいかないのが現実です。
現在でも7~8割の割合で本家相続が行われています。
しかし、家を引き継いだ人は、ご先祖様が残してくれた財産をまた自分の子供に引き継がなくてはなりません。
自分勝手に財産を使ってしまう人もいますが、ご先祖様の財産を子孫に継承するために一時的に預っているという気持ちが大切です。ほかの相続人も勝手に使われては納得がいきません。
ある話ですが、長男が遺産の全部を相続し、家を守っていくことになりました。相続した土地の一部にちょうど収用の話が起こり、県が道路用地として買ってくれることになりました。
長男はきょうだい全員を集め、「本来なら先祖代々の土地なので守らなければならないが、周りのこともあり収用に応じることにした。ついてはその収用でお金が入ることになったので、少ないけれど100万ずつ渡したい」と言って、全員に100万円ずつ渡しました。
ほかのきょうだいたちは、長男が家業を継ぎ、同居の母親の面倒も見、先祖代々の法事もきちんと行い、親戚付合いだけでなく近所付き合いも大変なことだと理解していたので、財産が全て長男が相続しても納得していたし、文句を言うつもりもなかったそうです。しかし、この件によりますます長男への信頼が深まったそうです。
100万円だから...という問題ではなく、長男がほかのきょうだいにどのように心配りをしているかという姿勢がきょうだいたちに伝わったのではないでしょうか。
こうした関係が、相続の話し合いのときには重要になってきます。
また、そのほかにも折にふれて心配りが大切です。遠方に住むごきょうだいなら、たとえば法事で集まった時などに交通費を出すようにし、遠方からの出席を労うという例もあります。
身内だからこそお互いを思いやる心配りが、うまくつきあっていくのには重要なことだと思います。
【ワンポイント】
ご先祖様の財産を子孫に継承するために一時的に預っている...という気持ちと、ほかの相続人に対する心配りが、うまくつきあっていくには重要なことだと思います。
質問
2人の子供がいます。長女は他家に嫁ぎ、長男が家を継いでくれるので長男にすべて遺産を相続させたいと思っています。遺言書を書けば可能でしょうか?
答え
法律上、長男1人にすべてを相続させることは認められていません。遺産の分割は、相続人全員で話し合って決めることが原則です。法定相続分といって、誰がどれだけもらえるかという決まりはありますが、その通りでなくても相続人全員が了解すれば、法定相続分を無視した遺産分割も可能なのです。
では、「すべてを長男1人に相続させる」という遺言を残す場合はどうなるかといいますと、法定相続分に優先して、遺言に従って配分されることになりますので、法定相続分は適用されません。
しかし、民法には「遺留分」として最低限の配分(受け取る権利)が決められています。
ご質問者の場合、もし長女の方が遺言に納得しなければ、長男に対し遺留分の請求を行うことができます。
つまり、法律上原則として長男1人にすべて相続させることはできません。
遺言を作成される場合は、長女の遺留分も考慮し、長男に配分を多くした理由などを「付言事項」としてきちんと書いておくなど、残される遺族が争わない配慮をしておくことが大切だと思います。
【ワンポイント】
遺言の作成は、最低限の遺留分などを考慮し、付言事項を活用し自分の意思や希望をわかりやすく伝えることにより、「争族」を防ぐことにつながります。事前に家族に話をしておくことも大切です。
質問
相続税には「延納」という制度があると聞きましたが、金融機関のローンとどこが違うのでしょうか。
答え
延納というのは原則として担保も提供しなければならないし、利息もかかるので、実質的にはローンと同じようなものです。ただ、その金利や担保などの諸条件が異なります。
現在は低金利な時代なので、延納の金利と比べてもローンの金利の方が安いので、金融機関からお金を借りてそのお金で相続税を納付してしまうことが多いようです。
ただし、注意しなければならないのは、返済期間の問題が出てくるので返済に係る年数も考慮した上で、ローンの明細書と延納の明細書をよく検討することです。
延納の明細書の作成は会計事務所で行ってくれます。
毎月の返済額や完済の時期などを考慮し、どちらが有利か確認しましょう。
延納期間と利子税の割合は下記のようになります。
①通常の場合...延納の期間は最長5年で利子税の割合は年6%となります。
②相続又は遺贈により取得した財産の合計額のうちに、不動産等の価額が占める割合が50%以上75%の場合...その不動産等の価額に対応する延納税額については、原則として、延納期間が最高15年、利子税の割合が年3.6%となります。
不動産等以外の価額に対応する延納税額については、延納期間が最高10年、利子税の割合が年5.4%となります。
③不動産との割合が75%以上の場合...その不動産等の価額に対応する延納税額については、原則として、延納期間が最高20年、利子税の割合が年3.6%となります。
不動産等以外の価額に対応する延納税額については、上記②と同様になります。
しかし、延納するための要件がありますので、下記の要件にあてはまらなければこの制度は利用できません。
①納付すべき相続税額が10万円を超えること。
②金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額を限度としていること。
③延納税額及び利子税の額に相当する担保を提供すること。
ただし、延納税額が50万円未満で、かつ、延納期間が3年以下である場合には担保を提供しなくても延納の許可を受けることは可能。
④延納しようとする相続税の納期限又は納付すべき日(延納申請期限)までに延納申請書に担保提供関係書類を添付して税務署長に提出すること。
以上の点を踏まえて、どちらが有利か慎重に検討しましょう。
【ワンポイント】
自分に合った返済条件等を考え、ローンの明細書と延納の明細書と比べて検討しましょう。
質問
土地をいくつか所有しています。相続が起こったときは、これらの土地のいくつかを物納や売却に充てようと考えていますが、更地のままではもったいないので有効利用したいのですが…。
答え
相続によって取得した空き地に有効利用としてマンション・アパートなど収益物件を建てる人が多くいます。収益物件を建てること自体は、金融機関としても建築資金のローンを契約できるからいいのですが、全部の土地に建物を建ててしまうと物納ができなくなるというおそれがあり、納税資金をねん出するために売却しようと思っても、賃借人がいれば追い出さないことには売却もできないし、出て行ってもらうのには多額の立ち退き料がかかります。
ですので、相続財産中、売却したり物納したりするような処分が必要な土地まで全部有効利用しようと考えるのはやめましょう。
物納は簡単に認められる制度ではありません。
①金銭で納付することが困難
②相続税の納期限までに物納申請書を提出しなければならない。
...つまり、延納によっても金銭で納付することが困難な事由が必要で、近い将来の収入なども考慮され、物納は延納によっても金銭で納付することが困難な部分の金額に限られます。
税務署がアパートやマンションの物納を避けたがる理由があります。
物納された財産は、物納払い出しとして結局は売却することになるのですが、売却までの間は国が管理しなければならなくなり、賃借人がいるとさらに面倒なので、アパートの形ではあまり認められていません。
結局、物納や売却を前提とした上での有効利用となると、駐車場のように建物を建てないことです。
物納には充てることができる財産は順位がきめられており、これは特別な事情がある場合を除き第1順位より順に選択することになります。
第1順位 国債、地方債、不動産、船舶、特定登録美術品
第2順位 社債(特別の法律により法人の発行する債券を含むが、短期社債等は除かれる)、
株式(特別の法律により法人の発行する出資証券を含む)、証券投資信託、又は
貸付信託の受益証券
第3順位 動産
相続等により取得した財産のほとんどが引き続き相続人の居住または事業の用に供する土地または家屋であるときは、その底地の物納申請ができます。
しかし、国が管理または処分が不適当な財産は物納が認められません。
詳しくは
http://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4214.htm(国税庁HP 相続税の物納)
物納財産を国が収納するときの価額は、原則として課税価格計算の基礎となった財産の価額になります。(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の適用を受けた相続財産を物納する場合の収納価額は、特例適用後の価額となります。)
なお、物納には譲渡所得税はかかりません。
【ワンポイント】
物納や売却のための土地の有効利用は、駐車場や農地のように更地にしておき、その上にアパートなど建物を建てないことがポイントです。
質問
以前住んでいたところ(遠隔地)に預金を残したまま、引っ越しました。カードで出し入れ出来る為、そのままにしていますが、このような預金も、相続が発生した後、税務調査でわかるのでしょうか?
答え
たとえ遠隔地にある金融機関であろうと、預金をしている可能性が見られればすべて税務調査は行われるので、わかると考えた方がいいでしょう。
銀行預金の調査は、相続税の申告書に記載されている金融機関だけに行うのではなく、相続人の住所地の近くにある銀行や勤務先の近隣の銀行、勤務先の取引銀行に書面で照会を行うこともあり、これらの照会や調査は、被相続人名義だけでなく、相続人や同居の親族名義のものにも及びます。
また、実際に臨宅調査を行ったときに、その家の住所録や電話帳などを見て取引先の金融機関の電話番号を控えています。
そしてさらには香典帳もチェックします。
香典帳には、香典をくださった方の住所・氏名・金額などが記録されており、取引がある金融機関の支店長は香典を持ってくることが多いものです。
預金額が小さければ香典は持って来ないですが、預金額が多額になると香典を持って来られることがあります。そしてその香典額は預金額の大きさに比例していることが多いようです。そのため遠隔地にあるといっても取引のある金融機関名は把握されてしまいます。
日常では、取引のある金融機関はカレンダーやタオルなどを持参するので、その家に置いてあるものから取引がわかります。
また、配当や利息からも元本がわかり、元本のある銀行は重点的に調査されます。
たいていの金融機関では過去の取引(入出金)がマイクロフィルムに保存されているので、これを家族名義も含めて税務署は過去5年分あるいは7年分の預金の動きを調べ、見ることになります。
この調査では、預金の増減が大きいものには特に注意し、大きく減っていれば他の人の預金が同じように増えていないかなど、名義預金のチェックをしたり、入出金で端数の付いているものや、大口のものには特に注意深く見ています。送金依頼などの契約がある場合も、その送金先の口座についても調査されます。
税務署が保管している資料は大量にあり、それらの資料から怪しまれて調査されることもよくあります。税務調査に対応するには専門家(税理士)の協力が不可欠であり、どこまでが被相続人の財産なのか判別できないものも多いので、申告漏れにならないように、相続税の申告は経験のある専門家(税理士)に依頼した方が間違いが少なく済みます。
前回のワンポイントアドバイスでもお話ししましたが、安易な所得隠しはかえって傷を深くし、無駄な税金を納めなければならなくなるので、きちんと申告するようにしましょう。
【ワンポイントアドバイス】
たとえ遠隔地にある金融機関でも、預金をしている可能性がみられれば税務調査を行うので、隠さずに申告しましょう。
質問
実は隠している財産があります。相続税申告は会計事務所にお願いしているのですが、本当のことを会計事務所に言うべきでしょうか?
答え
時折、「郵便貯金を隠し持っている(または割引債や遠隔地に預金口座を持っている)けれど、会計事務所に行ってしまうと税務署に伝わって税金をたくさん取られるのではないか」というような会話を聞きます。
結論から申しますと、会計事務所は、お客様を税務署から守る立場にあるので、会計事務所に正直に言ったからといって、そのまま税務署に筒抜けにはなりません。
しかし、会計事務所が脱税の手助けをすることはありません。ですが、「これは微妙だからこういう主張をしましょう」などとアドバイスをしてくれるでしょう。ですから基本的に会計事務所にはすべて言った方がよいでしょう。そうでないと税務調査が入った時にあわてることになります。
相続における最終段階の関門が、税務署による税務調査です。
この調査は、相続財産の最終的な確認という意味がありますが、それ以上に、財産の申告に漏れはないか、あるいは不正がないかチェックするものです。
その手法は、微に入り細に入り税務の専門家が丹念に調べ上げますので、税務調査への対応を前もって会計事務所と丹念に練っておくことをお勧めします。
調査をするかどうかは、遺産総額や資産内容、被相続人の収入、家族構成、税務署の内部資料などをもとに検討されますが、どうしても遺産総額の大きいものが調査対象となりやすいようです。
調査対象となったものは、さらに深く内容の検討が行われ、調査のポイントを絞った上で実際に被相続人が住んでいた自宅に訪問します。
この時に、預金通帳などの現物確認のほか電話帳、香典帳にいたるまで、調べあげ、いろいろな話を聞き出します。
その結果、不明な点は銀行や証券会社などを細かく調査して、調査前に抽出した問題点をひとつひとつ解明していきます。
なかでも、預貯金や株式などの有価証券は、つい申告し忘れたり、故意に隠されることが多くあり、税務調査の中でも、一番金融資産に関心を払うようです。
特に銀行や証券会社などの調査では、本人名義だけでなく、家族ひとりひとりの名義の預貯金や有価証券にかかわる動きを過去5年にさかのぼって調べあげます。
どこまでが本人(被相続人)の財産なのか、判別できないものも多いですから、相続税の申告にあたっては経験のある専門家に依頼した方が間違いが少なくてすみます。
安易な所得隠しはかえって傷を深くします。たとえば個人が生前に家族名義や架空名義、あるいは無記名で預けていた預貯金・公社債、上場会社の株式などは遺産として申告すべきものです。
仮装・隠ぺいした財産には、配偶者の税額軽減が適用できないほか、単なる申告漏れでも延滞税、加算税など無駄な税金を納めなければならなくなることを頭に入れておくことが大切です。
【ワンポイントアドバイス】
遺産以上の額の相続税はかかりませんので、確実に申告しておきましょう。
申告漏れが申告後にわかった場合は、過少申告加算税や悪質な仮装・隠ぺいが発覚した場合は重加算税が課税され、その税額は決して少ない額ではありません。
質問
知人から孫を養子縁組すると節税になると聞きました。本当でしょうか?
答え
確かに孫を養子縁組すると節税になる場合があります。
ただし、養子縁組することに対して節税以外の目的・理由がないといけません。
例えば、祖父が同居している長男の長男(孫)を、非同居の子供に相談せずに勝手に養子にしてしまったというケースがありました。
養子縁組されると法定相続人が1人増えるため、孫の親以外の子どもにしてみれば、自分たちの法定相続分が減ってしまう損な話に感じてしまいます。
ただし、孫を養子縁組することで遺産相続の際に節税できる可能性が高いことも事実です。具体的には、法定相続人が1人増えることによって基礎控除額が600万円増額し、その分相続税の課税対象となる課税遺産総額が減少するので、納めなければならない相続税の総額は軽減します。
さらに、先ほども申し上げたように、法定相続人が増えることで1人当たりの法定相続分は減るので、相続税率にも影響する可能性があります。
ですが、ここで注意しなければならないのは、養子縁組には節税以外の目的・理由が必要だということです。
ですが、ここで注意しなければならないのは、養子縁組には節税以外の目的・理由が必要だということです。
先ほどの例に挙げた孫を養子にした場合には、将来、家のお墓を守ることになる孫に自分の遺産を残したいという祖父の希望がありました。他にも「自分の面倒をよくみてくれた嫁を養女にして遺産を残して感謝の気持ちを示したい」など、被相続人に特別な意思がある場合にのみ、養子縁組は可能となります。
養子縁組による相続の際の節税は、あくまでも結果であり、それが目的とはなり得ません。
もしも節税を目的として養子縁組を行おうとすれば、税務署から租税回避行為とみなされかねません。
実際、節税のためのむやみな養子縁組を防止するため、養子縁組に関しては様々な制限が加えられています。例えば、基礎控除額を計算する際に認められる養子の数は実子がある場合は1人のみ、実子がない場合にも2人までと決められています。
**養子縁組に関しての制限**
・自分の尊属や年長者は養子にできない。
・養子縁組は夫婦そろって行わなければならない。
・未成年者との養子縁組は、家庭裁判所の許可がいる。
・一般養子が基礎控除の計算上、法定相続人として認められるのは、実子がない場合は2人まで。
【ワンポイント】
養子縁組による相続の際の節税はあくまでも結果であり、それが目的とはなり得ません。他の子供との関係なども熟慮しなければ、逆に「争族」になる可能性もありますのでご注意を。
質問
今のところ夫婦ともに健康ですが、この先に夫(もしくは妻)が認知症になり、意思決定能力がなくなってしまい、夫(もしくは妻)にもし万が一のことがあると相続にはどのような影響がありますか?
答え
通常の遺産分割は相続人同士の話し合いで行われるため、被相続人に意思決定能力がなくてもまったく問題はありません。
ですが、遺言書が残せないという問題は発生します。それをカバーするために、今後は成年後見制度を利用する人も増えるでしょう。
認知症,
このような
また、本人が十分な判断能力があるうちに、将来、判断能力が不十分な状態になった場合に備えて、あらかじめ自らが選んだ代理人(任意後見人)に、自分の生活、療養看護や財産管理に関する事務について代理権を与える契約(任意後見契約)を公証人の作成する公正証書で結んでおくという「任意後見制度」もあります。こうすることで、本人の判断能力が低下した後に、任意後見人が、任意後見契約で決めた事務について、家庭裁判所が選任する「任意後見監督人」の監督のもと本人を代理して契約などをすることによって、本人の意思にしたがった適切な保護・支援をすることが可能になります。
最近は、少子化・核家族化・高齢化が進み、家庭の介護力に期待できない時代になり、元気なうちに「任意後見制度」を利用する人も年々増加しているようです。
相続でご心配なことがあるようでしたら、お元気なうちに遺言書を作成し、スムーズな相続ができるように備えましょう。
【ワンポイント】
被相続人の意思決定能力は相続にはまったく問題はありません。しかし、認知症になってからでは遺言書は作成できません。元気なうちに遺言書を作成することをお勧めします。
質問
借金でアパートを建てると相続税は安くなるのでしょうか?
答え
確かに借金を資金にアパートを建てれば、相続の際に土地の評価額も低くなり、建物の価額も自用家屋より低くなるため、基本的には相続税は安くなります。
まず、1つ目に土地の評価が低くなる...という点ですが、これは貸家建付地(貸家が建てられている宅地)として評価されるために、更地に比べて低くなります。
算式としては、
貸家建付地の評価額=自用地の評価額-(自用地の評価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
となります。
2つ目にに建物の価額が時価に比べて低くなります。これは建物の場合、時価の約5割が評価額になるためです。
建物の評価は、
自用家屋=固定資産税評価額×1.0
貸家=自用家屋の価額×(1-借家権割合)
となり、借家権割合の分だけ貸家のほうが評価額が低くなります。この借家権割合は30%ですから、自用家屋よりさらに3割の評価減となるのです。
3つ目に小規模宅地等の評価減の特例により、アパートなどの不動産貸付業の場合は、減額割合が200㎡までについては50%となるのです。
そして借入金残高は相続税の債務控除の対象になります。つまり、相続財産から借入金を控除できるということです。
しかし、実務上問題となるのは、借金を返済しなくてはならないのにアパートに空室ができ収入がない場合です。
キャッシュフローの考え方からいくと、アパートを借金で建てた場合、その借金の額を回収することができるのはそのアパートが壊れる頃で、そうなると相続税を抜きにして考えればアパートを借金で建てるメリットはないように思われます。
先ほど説明しました「貸家建付地の評価」は、借地権割合×借地権割合×賃貸割合の分だけ低くなります。
借地権割合は地域ごとに定められており、個々の宅地に係る借地権割合がいくらかであるかは税務署(または国税庁ホームページの路線価図)でわかります。なお、借地権の取引慣行がないと認められる地域の借地権の価額は評価されません。
借家権割合はおおむね30%ですが、借家権自体は、その権利が権利金等の名称で取引される慣行のある地域を除いて課税の対象にされません。
評価が低くなるのは、アパートの住人の権利分を差し引くものであって、自分の権利がその分なくなるということなので、必ずしもメリットとは言えません。
小規模宅地等についての評価減の特例の適用を受けるためには、相続税の申告が必要です。(税制の改正により減額割合や適用条件の変更の可能性もあります)
ですので、立地条件や収入の見込み、自己資金や返済能力など、遺す側はもちろん、遺される側の資産状況もじゅうぶんふまえたうえで、検討しなければなりません。